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お母さんが死んでしまって、シンベグィレは、本当に悲しい気持ちでした。けれども、お父さんがシンベグィレのためにできる限りのことをしてくれたので、お母さんがいなくても、ふたりとも少しずつですが元気になれるようになりました。ふたりは、毎朝一緒に座ってその日のことをはなし、夜には一緒にご飯をつくりました。そして、お皿洗いが終わったら、お父さんがシンベグィレの宿題を手伝うのでした。
お母さんが死んでしまって、シンベグィレは、本当に悲しい気持ちでした。けれども、お父さんがシンベグィレのためにできる限りのことをしてくれたので、お母さんがいなくても、ふたりとも少しずつですが元気になれるようになりました。ふたりは、毎朝一緒に座ってその日のことをはなし、夜には一緒にご飯をつくりました。そして、お皿洗いが終わったら、お父さんがシンベグィレの宿題を手伝うのでした。
ある日のことでした。お父さんがいつもより遅く帰ってきました。「シンベグィレ、どこにいる?」呼ばれてシンベグィレがお父さんに駆けよっていきます。けれども、お父さんが知らない女の人の手を握っているのを見たとたん、ぴたっと立ち止まってしまいました。「シンベグィレに、特別な人を会わせたくて連れてきたんだ。アニータというんだよ」お父さんはにっこりほほえんで言いました。
ある日のことでした。お父さんがいつもより遅く帰ってきました。「シンベグィレ、どこにいる?」呼ばれてシンベグィレがお父さんに駆けよっていきます。けれども、お父さんが知らない女の人の手を握っているのを見たとたん、ぴたっと立ち止まってしまいました。「シンベグィレに、特別な人を会わせたくて連れてきたんだ。アニータというんだよ」お父さんはにっこりほほえんで言いました。
「はじめまして、シンベグィレ。お父さんからたくさんあなたのことを聞いてるのよ」そう言ったものの、アニータはにこりともしなければ、シンベグィレの手を取ろうともしません。お父さんはというと、とても嬉しそうにウキウキしながら、これから3人で暮らしたらどんなに素敵な暮らしになるかを話しています。「ねぇ、シンベグィレ、アニータをお母さんだと思ってくれたら嬉しいんだけどな」お父さんは言いました。
「はじめまして、シンベグィレ。お父さんからたくさんあなたのことを聞いてるのよ」そう言ったものの、アニータはにこりともしなければ、シンベグィレの手を取ろうともしません。お父さんはというと、とても嬉しそうにウキウキしながら、これから3人で暮らしたらどんなに素敵な暮らしになるかを話しています。「ねぇ、シンベグィレ、アニータをお母さんだと思ってくれたら嬉しいんだけどな」お父さんは言いました。
シンベグィレの暮らしは、変わってしまいました。お父さんと朝一緒に同じ椅子に座る時間はありません。アニータがあまりにたくさんの家のお手伝い事を言いつけるので、シンベグィレは夜には疲れて宿題もできません。夜ご飯が終わると、シンベグィレはまっすぐにベッドへ行くようになりました。死んでしまったお母さんがくれたカラフルな毛布だけが、シンベグィレをなぐさめてくれたのです。お父さんは、そんなシンベグィレの悲しい気持ちに気づいていないようでした。
シンベグィレの暮らしは、変わってしまいました。お父さんと朝一緒に同じ椅子に座る時間はありません。アニータがあまりにたくさんの家のお手伝い事を言いつけるので、シンベグィレは夜には疲れて宿題もできません。夜ご飯が終わると、シンベグィレはまっすぐにベッドへ行くようになりました。死んでしまったお母さんがくれたカラフルな毛布だけが、シンベグィレをなぐさめてくれたのです。お父さんは、そんなシンベグィレの悲しい気持ちに気づいていないようでした。
何か月かたって、お父さんはしばらく家を空けると言いました。「出張にいかなくちゃいけないけど、ふたりは一緒にがんばれるよね」シンベグィレの顔が曇ったことに、お父さんは気づきませんでした。アニータはだまっていました。アニータも嬉しくなかったのです。
何か月かたって、お父さんはしばらく家を空けると言いました。「出張にいかなくちゃいけないけど、ふたりは一緒にがんばれるよね」シンベグィレの顔が曇ったことに、お父さんは気づきませんでした。アニータはだまっていました。アニータも嬉しくなかったのです。
お父さんが出かけたあと、シンベグィレの毎日は前よりもっとつらくなりました。お手伝いを全部しなかったり、弱音をはいたりすると、アニータはシンベグィレをたたくのです。しかも、夜ご飯はアニータがほとんど食べてしまって、シンベグィレにはほんの少しの食べ残ししか回ってきません。毎晩シンベグィレは、お母さんの毛布を抱きしめて、泣きながら寝るのでした。
お父さんが出かけたあと、シンベグィレの毎日は前よりもっとつらくなりました。お手伝いを全部しなかったり、弱音をはいたりすると、アニータはシンベグィレをたたくのです。しかも、夜ご飯はアニータがほとんど食べてしまって、シンベグィレにはほんの少しの食べ残ししか回ってきません。毎晩シンベグィレは、お母さんの毛布を抱きしめて、泣きながら寝るのでした。
そんなある朝、シンベグィレは寝坊してしまいました。「なんて怠け者なの!」アニータは怒って、シンベグィレを布団から引きずり出しました。大切なお母さんの毛布がくぎにひっかかって、真っ二つにちぎれてしまいました。
そんなある朝、シンベグィレは寝坊してしまいました。「なんて怠け者なの!」アニータは怒って、シンベグィレを布団から引きずり出しました。大切なお母さんの毛布がくぎにひっかかって、真っ二つにちぎれてしまいました。
シンベグィレはもうびっくりして悲しくて、とうとう家から逃げ出すことにしたのです。ちぎれた毛布と少しの食べ物をもって家を出ると、お父さんが通った道をたどっていきました。
シンベグィレはもうびっくりして悲しくて、とうとう家から逃げ出すことにしたのです。ちぎれた毛布と少しの食べ物をもって家を出ると、お父さんが通った道をたどっていきました。
夜になって、シンベグィレは川のほとりの高い木にのぼって、枝の間に寝床をつくりました。そして、寝るときにこんな歌をうたいました。「おかあさーん、おかあさーん、おかあさーん、私をおいていっちゃった。私を置いていって、もうかえらない。おとうさんはもう私を愛していないよ。おかあさん、いつかえってくるの?私を置いていっちゃった。」
夜になって、シンベグィレは川のほとりの高い木にのぼって、枝の間に寝床をつくりました。そして、寝るときにこんな歌をうたいました。「おかあさーん、おかあさーん、おかあさーん、私をおいていっちゃった。私を置いていって、もうかえらない。おとうさんはもう私を愛していないよ。おかあさん、いつかえってくるの?私を置いていっちゃった。」
翌朝も、シンベグィレはまた同じ歌をうたいました。その悲しい歌は、川へ洗濯に来た女の人たちの耳にも入りましたが、高い木の上から聞こえてくるので、女の人たちは、これはきっと葉っぱが音を立てているのだろうと思って洗濯を続けていました。けれども、その歌をしっかり聴いた人がひとりだけいました。
翌朝も、シンベグィレはまた同じ歌をうたいました。その悲しい歌は、川へ洗濯に来た女の人たちの耳にも入りましたが、高い木の上から聞こえてくるので、女の人たちは、これはきっと葉っぱが音を立てているのだろうと思って洗濯を続けていました。けれども、その歌をしっかり聴いた人がひとりだけいました。
その女の人は木を見上げて、女の子とカラフルな毛布を見つけると、思わず声を上げました。「シンベグィレ!弟の子だわ!」ほかの女の人たちは洗濯をやめて、シンベグィレを木から下ろしてくれました。シンベグィレのおばさんは、小さなシンベグィレを抱きしめて、一生懸命になぐさめてくれました。
その女の人は木を見上げて、女の子とカラフルな毛布を見つけると、思わず声を上げました。「シンベグィレ!弟の子だわ!」ほかの女の人たちは洗濯をやめて、シンベグィレを木から下ろしてくれました。シンベグィレのおばさんは、小さなシンベグィレを抱きしめて、一生懸命になぐさめてくれました。
おばさんはシンベグィレを自分の家に連れて帰り、あたたかいご飯を出してくれたあと、お母さんの毛布をかけた布団にシンベグィレを寝かせてくれました。その夜寝るとき、シンベグィレは泣いてしまったのですが、でもそれはつらくて泣いたのではありません。安心したから泣いてしまったのでした。おばさんならちゃんと面倒をみてくれると、シンベグィレにはわかったのです。
おばさんはシンベグィレを自分の家に連れて帰り、あたたかいご飯を出してくれたあと、お母さんの毛布をかけた布団にシンベグィレを寝かせてくれました。その夜寝るとき、シンベグィレは泣いてしまったのですが、でもそれはつらくて泣いたのではありません。安心したから泣いてしまったのでした。おばさんならちゃんと面倒をみてくれると、シンベグィレにはわかったのです。
シンベグィレのお父さんが家に帰ると、シンベグィレがいないことに気づきました。「アニータ、何があったんだ?」お父さんは暗い気持ちで聞きました。アニータはシンベグィレが逃げ出したことを話しました。「シンベグィレにみとめてもらいたかったの。でもきっと、私がきつくあたりすぎたんだわ・・・」お父さんは家を出ると、川のほうへ歩いてから、お姉さんの住む村に向かいました。シンベグィレを見かけていないか、お姉さんに確かめるためでした。
シンベグィレのお父さんが家に帰ると、シンベグィレがいないことに気づきました。「アニータ、何があったんだ?」お父さんは暗い気持ちで聞きました。アニータはシンベグィレが逃げ出したことを話しました。「シンベグィレにみとめてもらいたかったの。でもきっと、私がきつくあたりすぎたんだわ・・・」お父さんは家を出ると、川のほうへ歩いてから、お姉さんの住む村に向かいました。シンベグィレを見かけていないか、お姉さんに確かめるためでした。
シンベグィレがいとこたちと遊んでいるときでした。遠くにお父さんの姿を見つけたシンベグィレは、お父さんが怒っているんじゃないかと怖くなって、おばさんの家の中に急いで隠れてしまいました。けれども、近くまでやってきたお父さんはこう言いました。「シンベグィレ、お母さんにぴったりな人を自分で探し出したんだね。シンベグィレのことが大好きで、しかもわかってくれる人だもんね。僕はそんなすごい娘がいてくれて幸せだし、父さんだってシンベグィレのことが大好きなんだよ」お父さんとはなして、シンベグィレは好きなだけおばさんの家にいられることになりました。
シンベグィレがいとこたちと遊んでいるときでした。遠くにお父さんの姿を見つけたシンベグィレは、お父さんが怒っているんじゃないかと怖くなって、おばさんの家の中に急いで隠れてしまいました。けれども、近くまでやってきたお父さんはこう言いました。「シンベグィレ、お母さんにぴったりな人を自分で探し出したんだね。シンベグィレのことが大好きで、しかもわかってくれる人だもんね。僕はそんなすごい娘がいてくれて幸せだし、父さんだってシンベグィレのことが大好きなんだよ」お父さんとはなして、シンベグィレは好きなだけおばさんの家にいられることになりました。
お父さんは毎日シンベグィレに会いに来ました。ある日、アニータが一緒にやってきて、シンベグィレの手を握ろうと手を差し出しました。「本当にごめんなさい。私が悪かったの」こう言って、アニータは泣いていました。「もう一度、私にやりなおさせてもらえるかな?」シンベグィレは心配そうなお父さんの顔を見上げてから、ゆっくりと一歩踏み出すと、アニータに抱きついたのでした。
お父さんは毎日シンベグィレに会いに来ました。ある日、アニータが一緒にやってきて、シンベグィレの手を握ろうと手を差し出しました。「本当にごめんなさい。私が悪かったの」こう言って、アニータは泣いていました。「もう一度、私にやりなおさせてもらえるかな?」シンベグィレは心配そうなお父さんの顔を見上げてから、ゆっくりと一歩踏み出すと、アニータに抱きついたのでした。
次の週、アニータはシンベグィレといとことおばさんを家に呼んで、ご飯をふるまいました。すごいごちそうです!アニータはシンベグィレの大好きなものをぜんぶ作っていて、みんなでおなかいっぱいになるまで食べました。食べ終わると、大人たちが話しているあいだ、子どもたちは一緒に遊びました。遊びながら、シンベグィレは嬉しくなって、勇気もわいてきました。だからこう決めたのです。「あと少し、あとほんの少ししたら、うちに帰って、お父さんと新しいお母さんと一緒に暮らそう。」
次の週、アニータはシンベグィレといとことおばさんを家に呼んで、ご飯をふるまいました。すごいごちそうです!アニータはシンベグィレの大好きなものをぜんぶ作っていて、みんなでおなかいっぱいになるまで食べました。食べ終わると、大人たちが話しているあいだ、子どもたちは一緒に遊びました。遊びながら、シンベグィレは嬉しくなって、勇気もわいてきました。だからこう決めたのです。「あと少し、あとほんの少ししたら、うちに帰って、お父さんと新しいお母さんと一緒に暮らそう。」
作者: Rukia Nantale
絵: Benjamin Mitchley
翻訳: Ryoko Sakakibara
朗読: Yumi Okano